東京地方裁判所 昭和52年(特わ)1375号 判決 1977年12月26日
被告人
(一)
本店所在地 東京都世田谷区下馬一丁目五二番一七号
東南開発株式会社
(右代表者代表取締役佐藤敏夫)
(二)
本籍 福島県会津若松市東山町大字石山字天寧一七三番地
住居
東京都大田区田園調布五丁目五番一号
会社役員
佐藤敏夫
昭和七年一〇月一九日生
右両名に対する法人税違反各被告事件について、当裁判所は検察官五十嵐紀男出席のうえ審理し、次のとおり判決する。
主文
被告会社東南開発株式会社を罰金一、五〇〇万円に、
被告人佐藤敏夫を懲役一年にそれぞれ処する。
被告人佐藤敏夫に対し、この裁判確定の日から三年間、右懲役刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告会社東南開発株式会社は、東京都世田谷区下馬一丁目五二番一七号(昭和五〇年二月一〇日以前は、同都目黒区祐天寺二丁目二番一〇号)に本店を置き、不動産の売買、仲介等を目的とする資本金七〇〇万円の株式会社であり、被告人佐藤敏夫は、同会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括していたものであるが、被告人佐藤は、被告会社の業務に関し法人税を免れようと企て、架空の違約弁償金等を計上して簿外預金を蓄積するなどの方法により所得を秘匿したうえ、昭和四八年四月一日から同四九年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一七四、八六六、四六三円(別紙(一)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、同四九年五月三一日同都目黒区中目黒五丁目二七番一六号所在の所轄目黒税務署において、同税務署長に対し、その所得金額は二三六、一九九、二四六円の欠損であるが、土地の譲渡等にかかる譲渡利益金額が三六、一七九、〇〇〇円あるので納付すべき法人税額は五、五四〇、〇〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額六九、五四〇、七〇〇円(別紙(二)税額計算書参照)と右申告税額との差額六四、〇〇〇、七〇〇円を免れたものである。
(証拠の標目)(甲、乙は検察官証拠請求番号を示す)
判示冒頭の事実および全般にわたり
一、 検察事務官宮前義司作成の昭和五二年九月七日付被告会社の概要についてと題する報告書(甲1)
一、 被告人佐藤敏夫の当公判廷における供述
一、 同じく検察官に対する各供述調書二通(乙1、2)
一、 須藤カツヱの検察官に対する各供述調書二通(甲4、5)
判示事実添付の別紙(一)修正損益計算書に掲げる科目別当期増減金額欄記載の数額について
<受取手数料につき>
一、 須藤カツヱ作成の申述書(甲3)
一、 収税官吏佐多教右作成の昭和五一年二月二八日付受取手数料調査書(甲6)
<受取家賃につき>
一、 須藤カツヱ作成の申述書(甲3)
一、 同じく検察官に対する昭和五二年五月二三日付供述調書(甲5)
<当期仕入高につき>
一、 須藤カツヱ作成の申述書(甲3)
一、 同じく検察官に対する昭和五二年五月二三日付供述調書(甲5)
一、 収税官吏佐多教右作成の仕入調査書(甲7)
<期末商品棚卸高につき>
一、 須藤カツヱの上申書(甲3)
一、 同じく検察官に対する昭和五二年五月二三日付供述調書(甲5)
一、 押収してある被告会社の昭和四九年三月期確定申告書(昭和五二年押第一九〇〇号符一号)
<給料手当につき>
一、 須藤カツヱ作成の昭和五〇年一二月八日付上申書(甲8)
<租税公課につき>
一、 収税官吏佐多教右作成の調査書(事業税計算書)(甲9)
一、 被告会社代表取締役佐藤敏夫の上申書添付各修正確定申告書(甲18)
一、 押収してある被告会社の昭和四九年三月期確定申告書(前同号)
<雑費につき>
一、 須藤カツヱ作成の申述書(甲3)
<受取利息につき>
一、 須藤カツヱ作成の申述書(甲3)
一、 収税官吏丸山正司作成の昭和五一年三月四日付簿外預金および受取利息調査書(甲10)
一、 収税官吏佐多教右作成の昭和五一年二月二〇日付貸付金利息調査書(甲11)
一、 収税官吏丸山正司作成の昭和五一年三月四日付公表預金に係る増減調査書(甲12)
一、 検察事務官宮前義司作成の昭和五二年九月一二日付報告書(受取利息について)(甲13)
<雑収入につき>
一、 須藤カツヱ作成の申述書(甲3)
一、 佐藤敏夫作成の昭和五一年一月二一日付申述書(乙5)
<違約弁償金勘定につき>
一、 八木顕の収税官吏に対する昭和五〇年七月三一日付質問てん末書(甲2)
一、 須藤カツヱ作成の申述書(甲3)
一、 同じく検察官に対する各供述調書二通(甲4、5)
一、 収税官吏佐多教右作成の昭和五一年一月二九日付違約弁償金調査書(甲14)
一、 梶原章の検察官に対する供述調書(甲15)
一、 高野史弥の収税官吏に対する質問てん末書(甲16)
一、 検察事務官宮前義司作成の昭和五二年九月五日付報告書(証拠品の写作成についてと題する書面)(甲17)
一、 佐藤敏夫作成の昭和五一年一月二一日付申述書(乙5)
<損金計上役員賞与につき>
一、 須藤カツヱの検察官に対する昭和五二年五月二三日付供述調書(甲5)
一、 須藤カツヱ作成の昭和五〇年一二月八日付上申書(甲8)
一、 被告会社の登記簿謄本
<交際費限度超過額につき>
一、 被告会社代表取締役佐藤敏夫作成の昭和五一年三月八日付上申書添付の昭和四九年三月期修正確定申告書のうち別表一五交際費等明細書(甲18)
一、 押収してある被告会社昭和四九年三月期確定申告書(昭和五二年押第一九〇〇号符一)のうち別表四所得金額の計算に関する明細書
<申告欠損金につき>
一、 押収してある被告会社の昭和四九年三月期確定申告書(前同号)
別紙(一)修正損益計算書に掲げた公表金額及び過少申告の事実について
一、 被告会社確定申告書昭和四九年三月期分(昭和五二年押第一九〇〇号の符一号)
(貸倒れの認定基準についての当裁判所の判断)
一、 弁護人は、被告人が被告会社の資金を梶原章を経て八潮開発(観光)に対して七、五〇〇万円ほど融資していたところ、別に被告会社において仲介にかかる不動産のあっ旋が不成立となったところから、右梶原章及び右八潮開発(観光)の梶原平より、右七、五〇〇万円は手付流れとなった、また、損害が生じたので請求する旨申し立てられ、現に、これまで右金員の返却を受けていないし、また、右不動産たる土地につき、右八潮開発(観光)が地上げをしていたところから三億円程の請求を免れないであろうと考慮し、この懸念から軽卒にも本件の四億円の違約弁償金を計上したものである旨を述べ、右七、五〇〇万円が貸倒損か、または違約弁償金の一部として充当したとみられるかのような意見を述べているので、この点につき当裁判所の判断を示すこととする。
二、 被告人は、当公判廷において、ほゞ弁護人の意見にそう供述をなしており「梶原兄から貸した、七、五〇〇万円は違約金だ、返済しないぞ、また、地上げなどに要した費用で七億円位損しているから半分から七割位は弁償しろと強く要求された。貸した七、五〇〇万円はもうないものと思っていたし、あと、いくら請求されるかわからないので一応四億円を損金として申告し、確定した段階で修正申告をすれば良いと考えていた」旨供述している。
しかしながら、当公判廷において被告人は、右七、五〇〇万円については、利息を貰っていた、右梶原には資産はあった、七億円の損をしているから返さんぞといわれたが、しかし、未だ、右梶原に対し債務を免除する旨の意志を表示したことはないし、そのまま放置し明確な処置はしていなかった旨供述している。また、捜査段階においても、被告人は検察官に対し、「この金は土地代金として支払ったものではなく、私としては梶原に対する純然たる貸付金であると理解しており、現在でも返えして貰うべきものと考えています」「契約が成立しなかった場合費用をどうするか、損害の弁償をどうするかというような話は関係者の間で事前には全くありません」「契約が成立しなかったからと言ってその費用は弁償する約束はしておりません」「梶原に返えさなくても良いと債務の免除をしたことはありませんし、いざとなれば裁判ででも取れる訳である」等と供述している(被告人の検察官に対する昭和五二年五月一八日付供述調書第六項)。
また、梶原章は検察官に対し「佐藤から借りた金というのは、私個人名義で借りたこの合計九、五〇〇万円だけであります。そのうち、二、〇〇〇万円は四九年の二月に手形決済して返済しておりますから、昭和四九年三月末の時点において債務として残っていたのは七、五〇〇万円であります」「その後二〇〇万円位は佐藤に渡し、また一〇〇万円位作って佐藤に返済し、また北海道の土地一、五〇〇坪位を佐藤に渡しております。八潮開発に対する貸付も回収できる見込みがありますから、それが取れれば、佐藤の方に返済するということで現在に至っております。佐藤から催促されたとき、借りた金は返しますし、北海道の土地も渡すし、八潮開発からの回収がついたら返しますし、ちよっと時間がかかるが待ってもらいたいといって佐藤の方も了解してくれております」「佐藤から貸した金の債権を放棄するとか、催促をしないとか言われたことはありませんし、私の方としても全く返済する能力がないというわけではありません」と供述している(梶原章の検察官に対する供述調書第二項)。
右梶原章の供述は、前掲の捜査段階における被告人の検察官に対する供述とほゞ符節しているので、当公判廷における被告人の供述は、右と対比し措信できないといわねばならない。
そこで右の各証拠を綜合すれば、右七、五〇〇万円は、右梶原章に対する貸付金と認められ、被告会社が章の兄の梶原平の経営する八潮開発(観光)に仲介した土地と全く関係がないこと、当該土地につき被告会社との間に違約金、費用弁償等の約定が何ら存しなかったこと、貸付金九、五〇〇万円のうち一部二、〇〇〇万円が弁済されていること、貸付先梶原章には資産があり、同人は返済する旨申し述べていること、及び被告人において債務免除の意思表示もなされていないこと等が認められる。
三、 ところで、税法上、特定の債権が貸倒れとして法人税法二二条三項の損金を認められるためには、債権の取立てが不能となるか、或いは債権の回収の見込みのないことが客観的に確実となることを要するものと解する。貸金債権が法律上は存続しているとしても、これを経済的に観察して評価し、経済的に無価値と認められる場合には、債権回収の見込みのないことが明白であるので、貸倒れ経理を認めるのが相当である。それは、債務者の地位、職歴、信用、能力、債務者の事業の将来性その他諸般の経済的状況を総合して判断すべきものである。
また、債務者との間に特段の事情が生じたために、事実上回収不能となったとしても、貸倒れと認めるためには、それだけでは充分ではなく、更に、その債権を放棄する等して消却の措置をしたという事実が必要であり、しかも、右の事実が当該事業年度中に確定した場合でなければならないものと解する。
これを本件についてみるに、前掲各証拠によれば、債務者が既に支払不能にあったとは認め得ない状態にあるのみならず、経済的にも無価値とは認められず、また、債権回収の見込みがないともいえないのにかかわらず、同人に対し訴訟その他の方法により強固な督促請求に出た証跡もなく、また、被告会社において債権放棄をするとか、債務の免除をしたという事実も認められないので、従って、これを本事業年度において損金の額に算入することはできない。
(法令の適用)
被告会社につき
法人税法一五九条、一六四条一項。
被告人につき
法人税法一五九条(懲役刑選択)、刑法二五条一項。
よって主文のとおり判決する。
(松沢智)
別紙(一)
修正損益計算書
東南開発株式会社
自 昭和48年4月1日
至 昭和49年3月31日
<省略>
<省略>
別紙(二)
税額計算書
東南開発株式会社
自 昭和48年4月1日
至 昭和49年3月31日事業年度分
<省略>